冬のシーズン(12月〜1月がピーク)に大流行するノロウイルスですが、一年を通じて感染する可能性があります。感染力が非常に強いため一度は感染した経験がある人が多いのではないでしょうか。
ノロウイルスが原因で下痢を起こした感染者の糞便1gには、ノロウイルスが100万から1兆個も含まれています。また、おう吐物からも、多量のノロウイルスが検出されます。
現在、食中毒事件数は減少傾向にあり1件の事件における被害者数が増加している傾向でした。
しかし、食中毒事件数だけでなく、2015年22,718人、2016年20,252人、2017年16,464人と被害者数も減少していることがわかります。被害者の内、約50%〜60%がノロウイルスにより発生しております。
ただし、これは事故により感染した人数であり、実際には毎年200万人〜500万人程度の人が感染していると言われています。
補足:全国にある3000の小児科医療機関からノロウイルスが感染の一因である感染症胃腸炎を報告された数が分かりますが、全数ではありません。あくまで推測される人数が上記となります。
ノロウイルスについての概要
ノロウイルスは日本だけでなく世界中で蔓延しているウイルスの一つです。(アメリカで発見されました)症状として嘔吐、下痢、腹痛などを引き起こします。
通常1〜3日程度で症状は落ち着きますが、完治しているわけでないため糞便には大量にノロウイルスが含まれています。学校や職場への復帰の際には気をつけなければいけません。(感染から完治まで1週間程度は様子をみること)
感染した牡蠣などの2枚貝を生で食べることによって1次感染する場合、その感染者からの糞便に含まれるノロウイルスによって2次感染する場合、食品加工される中の人に感染者がおり食品に混入して感染する場合などがあります。
ウイルス自体が非常に強いため、接触感染、飛沫感染、空気感染(確率は低い)等感染する可能性が非常に高くなってしまいます。
また、ノロウイルスは治療薬がないため対症療法のみしかできません。
厚生労働省が挙げるノロウイルス対策とは
ノロウイルスによる食中毒・感染症の未然予防および発生後の拡大防止のためには、汚染環境等に存在するノロウイルスを加熱あるいは消毒・殺菌剤等により不活化(死滅)させることが極めて重要です。
厚生労働省はノロウイルスを不活化させる方法として、85℃で1 分以上の加熱処理や次亜塩素酸ナトリウムによる処理が有効として対策として推奨しています。
他方、すべての汚染物に加熱処理や次亜塩素酸ナトリウムによる消毒が使用できるわけではありません。次亜塩素酸ナトリウムは、人体の皮膚に対する刺激作用、金属に対する腐食作用、服に対する漂白作用などがあるため、使い分ける必要があることや取り扱いに注意が必要なことなどが挙げられます。
実際に使用される現場では、ノロウイルスは有機物と混在して存在する場合が多いため、試験管内の不活化効果は実際の現場での有効性とは必ずしも言い切れません。
従って、加熱処理、次亜塩素酸ナトリウム以外の薬剤について代替できるものがあるか知る必要があります。
参考:厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」(2018年改定)
ノロウイルス有効評価試験について
そこで、国立医薬品食品衛生研究所により、実際の現場にて使用される消毒剤や除菌剤などのノロウイルスに対する有効性評価試験を行われました。
ノロウイルスは細胞培養や小動物で増殖させることができないため、ノロウイルスに対する薬剤の有効性評価、物理化学的処理に対する抵抗性、環境や食品での生存性等を調べることができません。従って、有効評価試験はノロウイルスの代替ウイルスのネコカリシウイルスで行われました。
消毒剤は、次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸水、次亜塩素酸水、二酸化塩素、アルコール系消毒剤(11種類)を使い比較します。
負荷試験に使用する有機物として,ウシ血清アルブミン(BSA)、ポリペプトン、肉エキスあるいは酵母エキスを利用し有効性を評価しました。(※アルコール系消毒剤の試験においては、 負荷試験は肉エキスを使用して実施されました)
不活化効果試験は各々3回行い、十分な効果あり、効果あり、効果なしの3段階で示しました。
参考:国立医薬品食品衛生研究所「ノロウイルスの不活化に関する研究の現状」(2011年)
ノロウイルス有効評価試験の結果について
次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸水、次亜塩素酸水、二酸化塩素、アルコール系消毒剤(11種類)について下記に結果を示します。
次亜塩素酸ナトリウムの結果
消毒剤の陽性コントロールとして次亜塩素酸ナトリウムを準備し、5,000mg/L、1,000mg/L、300mg/L、200mg/L、100mg/Lの各濃度(有効塩素濃度)でウイルスの不活化試験を行いました。
BSA等による有機物負荷条件下でも十分な不活化効果が認められました。1,000mg/Lでは有機物負荷なし、あるいは BSA負荷では不活化効果がありましたが、肉エキスやペプトンによる負荷では5分の反応条件でも十分な不活化はされませんでした。
300mg/L以下の濃度では、負荷剤がない場合は不活化効果が認められましたが、負荷条件下では不活化効果は認められませんでした。
亜塩素酸水の結果
亜塩素酸としての濃度が3,800mg/Lの試験液ではBSA、肉エキス、ポリペプトンによる有機物負荷条件下で、760mg/L の試験液ではBSAによる有機物負荷条件下で,十分な不活化効果が確認されました。
次亜塩素酸水(150mg/L)の結果
有機物負荷のない条件では十分な不活化効果が認められました。負荷条件下では BSA添加後3分以上で不活化効果が認められました。
二酸化塩素の結果
有機物負荷のない条件でも不活化されませんでした。(商品により差がある可能性があるそうです)
アルコール系消毒剤11種類の結果
4種類のアルコール消毒剤には効果がありませんでした。
残りの7種類は、有機物負荷のない条件において不活化効果が認められました。有機物負荷条件下では、その内の3種類のみ3分以上の反応で不活化効果が認められました。
参考:国立医薬品食品衛生研究所「ノロウイルスの不活化条件に関する調査報告書」(2015年)
ノロウイルスに対する手指でのアルコール除菌について
試験したチームは、ノロウイルスを用いて、ノロウイルスを汚染させた手指でのエタノール、液体抗菌石けん、および水洗いによる不活化および除去効果を調べました。
ASTM(米国材料試験協会)の標準手指法(fingerpad method)、やその改良法(手こすりを行う)で、指に付着させたノロウイルスがどれほど減少するか比較しました。
その結果、液体抗菌石けん処理や水洗いのみでも比較的大きく減少したのに対し、アルコール性手指消毒剤は比較的低効果でした。
従って、アルコール除菌剤がノロウイルスに対して効果が低いという事実とこまめ手洗いをすることが有効であることが分かりました。
参考:国立医薬品食品衛生研究所「ノロウイルスの不活化条件に関する調査報告書」(2009年)
ノロウイルス有効評価試験結果の考察として
有機物を負荷した場合では、すべての負荷条件で検出限界以下まで不活化できたものは亜塩素酸水5%(50000mg/L)と次亜塩素酸ナトリウム0.5%(5000mg/L)でした。
また、次亜塩素酸水は150mg/Lと低い濃度にも関わらず全てではないですが、BSEと混合された中で不活化効果を示しました。同じ濃度の次亜塩素酸ナトリウムや亜塩素酸水よりも不活化効果が高かったです。
一方、効果がばらつきましたが、アルコール系消毒剤の製品の中でも、ネコカリシウイルスに不活化効果を示すものがありましたが負荷がかかった環境や負荷なしでもウイルス除去する時間がかかることが分かりました。
これらの結果から、従来から指摘されているように、十分な不活化効果を得るためには、汚染物の除去や消毒薬を使用する前の清掃や洗浄が重要であることが再確認されました。
以上、次亜塩素酸水を使ったノロウイルス不活化試験をした結果厚生労働省まとめについてご紹介しました。