【追記2018年7月5日】【追記2019年6月25日】
厚生労働省によると次亜塩素酸水を生成するためには食塩水や塩酸を電気分解することで得られ、食品添加物の殺菌料として食品への適用ができます。
弱酸性次亜塩素酸水溶液の国内の各種法的位置づけとしては、特定化学物質、危険物、毒劇物、医薬品でなく、雑貨に分類されます。
他の除菌剤に比べて、弱酸性次亜塩素酸水溶液は、環境負荷が低く高濃度で大量に使用する場合以外は排水時に中和処理の必要ありません。
※殺菌料:食品に含まれる細菌などの微生物を取り除くために食品に添加することや食品製造器具の洗浄するために使用されるものです。次亜塩素酸水は食品洗浄の用途の殺菌料として使われます。
電解式次亜塩素酸水と弱酸性次亜塩素酸水溶液は製法が異なりますが、殺菌や除菌の成分は同じ次亜塩素酸なので効果としては同じです。しかし、製法、濃度、pHによって違いがでてきます。それらについて詳しく見ていきましょう。
電解式次亜塩素酸水と弱酸性次亜塩素酸水溶液について
食品添加物の「次亜塩素酸水」の定義は厚生労働省によってレギュレーション(規則)が決められております。
参考:厚生労働省がまとめた次亜塩素酸水の具体的な製法、濃度、pHについて
電解式の製法で作る次亜塩素酸を使った除菌水を次亜塩素酸水と呼びます。
一方で、混合式を使った製法で次亜塩素酸を使用した除菌水を次亜塩素酸水溶液と呼びます。
特に、次亜塩素酸水溶液のうちpHを弱酸性に調整したものを弱酸性次亜塩素酸水溶液と呼びます。
混合式の次亜塩素酸水溶液を食品添加物として使用する場合には混合式に使う材料の指定や食品工場内でのみで使用することなど決まりがありますが、使用する濃度やpHなど厳密には決められていません。
電解式次亜塩素酸水の生成について
電解式の陰極、陽極では以下のような反応が起こっています。通常のお水だけであれば、下記の化学反応が起こりますが、塩素イオンがたくさんあると塩素から次亜塩素酸を陽極で生成します。
2H2O→O2+4H++4e- (中性のお水のみの電気分解)酸素を生成
CL2+H2O→HOCL+H++CL- (陽極)次亜塩素酸、水素イオン、塩化物イオン
陰極では、イオン化傾向が大きいナトリウムイオンは還元されずに水素と水酸化物イオンができるため強アルカリ性のお水が生成されます。
2H2O→H2+2OH- (陰極)水素と水酸化物イオン
混合式次亜塩素酸水溶液の生成について
一方、次亜塩素酸ナトリウムに塩酸、クエン酸、二酸化炭素のpH調整剤と水を希釈して混合することで生成する次亜塩素酸水溶液ができます。
下記に次亜塩素酸ナトリウムと塩酸を混合した化学反応式を示します。
NaClO+HCL→HCLO+Na++CL- 次亜塩素酸、ナトリウムイオン、塩化物イオンが生成
電解式次亜塩素酸水と同じく食品添加物の殺菌料として使用できます。
但し、一度容器やタンクなどに貯蔵したあと使用することはできませんので、生成後すぐに使用することを厚生労働省は推奨しています。
pHや濃度などの規定がないため使用する際には有効塩素濃度やpHを随時チェックする必要があります。
電解式と混合式の次亜塩素酸水の違いは?
昭和大学藤が丘病院は、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、緑膿菌の3種類の細菌を用いて電解式次亜塩素酸水と混合式弱酸性次亜塩素酸水溶液の殺菌試験を行いました。
混合式で作ったpH5~6では濃度50ppmで3種類の細菌に即効的な効果がありました。また、 6時間ほど開放し放置していても、塩素量の消失はありませんでした。
一方で、 pH2.67~2.80の電解式次亜塩素酸水では濃度5ppmで3種類どの細菌にもに殺菌効果がありました。しかし、6時間ほど開放し放置した状態だと20%濃度の低下が認められました。
殺菌力はpHの低い電解式の方が高いですが、混合式の次亜塩素酸水溶液の方が長く使用できることが分かりました。
次亜塩素酸水の濃度とpHによる違いは?
次亜塩素酸ナトリウムでも殺菌できない菌で、熱耐性、薬剤耐性がある芽胞菌があります。食中毒を引き起こすボツリヌス菌やセレウス菌、飲料の事故の原因である耐熱好酸性菌、病院内での感染症の原因のクリストリジュウムディフィシル(CD)などがいます。
次亜塩素酸水溶液をpH6とpH9を10、20、30、50、100、200ppmに調整した溶液でこれらの3種類の芽胞菌に対する殺菌試験を行いました。
その結果として、すべての次亜塩素酸水溶液で殺菌効果がみられ、濃度が高いほど殺菌能力が大きくなり、濃度と殺菌スピードは相関関係があることが分かります。
また、pH6(弱酸性)とpH9(弱アルカリ性)の次亜塩素酸水溶液では、同じ濃度であればpH6の方が殺菌するスピードが早くより効果的です。
セレウス菌
●pH6 50ppm→60分、100ppmでは15分、200ppmでは5分で検出なし
耐熱好酸性菌
●pH6 50ppm→120分、100ppmでは30分、200ppmでは15分で検出なし
クリストリジュウムディフィシル(CD)
●pH6 50ppm→100分、100ppmでは5分、200ppmでは30秒以下で検出なし
弱酸性次亜塩素酸水溶液を使用する時の適切なpHと濃度
また先ほど芽胞菌の追加実験としてpH2〜6で比較した結果、pH4が一番速く菌を殺菌することができました。
なお、pH4付近では金属に対する腐食性が増加することとや塩素ガスも多少発生することから使用の時には換気などの注意が必要です。塩素が水に溶けている状態では、次亜塩素酸イオンが一番安定しており、次に次亜塩素酸、最後に塩素ガスという順序となっています。
つまり、酸性からアルカリ性領域に行くほど安定するということです。だから次亜塩素酸ナトリウムは次亜塩素酸イオンが多く存在するために次亜塩素酸水と比較しても長持ちするのです。(実は濃度の低下は起きていきますが、高濃度なので効果があるとイメージした方が分かりやすいかもしれません。)
条件25℃、pH 5、6、7、8における次亜塩素酸(HClO)と次亜塩素酸イオン(ClO-)の割合を下記に示します。厚生労働省のホームページにある資料によると次亜塩素酸と次亜塩素酸イオンの殺菌力では80倍程度次亜塩素酸が強いとされています。
引用:EPA(米国環境保護庁)「Alternative Disinfectants and Oxidants Guidance Manual」
pH5の弱酸性次亜塩素酸水溶液の内、有効塩素の99.7%が次亜塩素酸(HClO)で、0.3%が次亜塩素酸イオン(ClO-)に別れています。
pH6の弱酸性次亜塩素酸水溶液→96.1%が次亜塩素酸(HClO)、3 .1%が次亜塩素酸イオン(ClO-)
pH7の弱酸性次亜塩素酸水溶液→76%が次亜塩素酸(HClO)、24%が次亜塩素酸イオン(ClO-)
pH8の弱酸性次亜塩素酸水溶液→24%が次亜塩素酸(HClO)、76%が次亜塩素酸イオン(ClO-)
酸性領域では塩素ガスが一部気体となって放出されるためです。pH2〜7では、酸性ほど有効塩素濃度が低下しやすくなり、中性に近いほど濃度の低下が比較的緩やかです。
結論として、弱酸性次亜塩素酸水溶液を食材や機器の殺菌に使用する場合には50~200ppmの濃度で中性に近い弱酸性領域のpH6~7に調整して1〜2分接触するように使用することをオススメします。
なお、弱酸性次亜塩素酸水溶液を使う際の注意点として、低下が緩やかとはいえ低下していることには間違いはないため濃度管理、消費期限等遵守する必要があります。
また、次亜塩素酸の濃度低下の原因は紫外線です。蛍光灯からも微細な紫外線が出ています。最近はLED照明を使われている方は問題ありません。
基本的に商品として売られている次亜塩素酸水溶液の除菌剤・消臭剤は紫外線を遮光するボトルが使われていますが、窓際に置いておくこと、透明の容器はなるべく避けてください。
弱酸性次亜塩素酸水溶液の安全性試験について
次亜塩素酸水溶液は次亜塩素酸ナトリウムに比べて皮膚への刺激がなく人体に対する影響を調べた急性毒性試験、粘膜刺激性試験、変異原性試験、吸引暴露試験、残留性試験などもありませんでした。
また、残留性もないため使用した後、排出しても紫外線、温度、有機物などによって自然分解されるため環境にも優しいことが実験結果から判明しています。
次亜塩素酸水を使用する留意点として、有機物としてウシ血清アルブミン(BSA)とペクチン(植物の細胞壁や中葉に含まれる複合多糖類)を混ぜ、各pHの次亜塩素酸水溶液を接触させた場合、pHが4.5~6.0の範囲で有効塩素濃度の残存率が高い傾向が認められていますが、有機物の共存により殺菌効果は低下することが分かっています。
従って、使用する場合は清掃をした後の仕上げとして活用をすべきです。
電解式次亜塩素酸水と弱酸性次亜塩素酸水溶液は、安全かつ菌やウイルスに対して効果的に使用することができるので食品現場や医療施設のみでなく一般家庭でも使用が普及していくといいと思います!
以上、弱酸性次亜塩素酸水溶液と電解式次亜塩素酸水の違い!効果的に使う濃度とpHについてご紹介しました。