カット野菜は、消費まで加熱工程がありません。そのため、栽培中の収穫など汚染(土壌にいる細菌や土など)のリスクに加え、流通や加工段階で二次汚染されるリスクも含んでいます。
食品加工工場では、通常食品添加物となっている次亜塩素酸ナトリウムなどで洗浄されています。
一方で、次亜塩素酸ナトリウムでの洗浄にて食味、風味を損なう可能性や取り扱いなどの安全性より次亜塩素酸水について注目されており活用の幅が広がってきています。
それでは、次亜塩素酸の効果をより高めるために混ぜた界面活性剤についての試験結果についてご紹介したいと思います。
弱酸性次亜塩素酸水溶液の殺菌効果を高める界面活性剤での試験
弱酸性領域の次亜塩素酸水溶液は「次亜塩素酸」の殺菌力が最大になります。pHによる殺菌力の違いを知りたい方は下記の記事を参考にしてください。
しかし、次亜塩素酸水はお水と同様に表面張力が働き目に見えないような隙間に入り込むことができません。
その表面張力を軽減させることで触れる表面積が高まることで殺菌効果が高まると期待されています。
注意:一般家庭では次亜塩素酸水溶液と何かを混ぜて使用することはしないでください。
そこで、弱酸性次亜塩素酸水溶液の野菜表面の菌体への接触性を向上させることを目的とした実験をおこないました。
弱酸性次亜塩素酸水溶液に界面活性剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルとショ糖脂肪酸エステル配合洗浄剤をそれぞれ混合して使用した場合の洗浄殺菌効果についても比較しました。それぞれの表面張力は下記です。
・水道水→71.7N/m(ニュートン/メートル)
・次亜塩素酸ナトリウム→67.2N/m
・弱酸性次亜塩素酸水溶液→70.6N/m
弱酸性次亜塩素酸水溶液に界面活性剤2種を加えることによって、ポリグリセリン脂肪酸エステルとショ糖脂肪酸エステル配合洗浄剤の表面張力は各々31.3、28.0N/mまで低下します。
これは、界面活性剤を蒸留水に混合した場合と表面張力はほぼ同等で、界面活性効果に弱酸性次亜塩素酸水溶液は影響を与えないことが分かりました。
また、弱酸性次亜塩素酸水溶液に界面活性剤を加えることにより、表面張力は著しく減少し、かつ調製後24時間はpHと遊離残留塩素濃度の低下も少ないこと分かりました。
通常、塩素系の消毒剤は有機物と反応すると徐々に失活して効力を失います。
そのため、基本的には洗浄剤とも反応し殺菌効果が低下するため、洗浄剤と混合して使用することは推奨されていません。
注意:混合した後に作り置きなどすることは効果が著しく低下するためできません。
しかし、今回実験に用いた2 種の界面活性剤は調製後24時間まで遊離残留塩素濃度、pHを維持し、かつ表面張力も低下しており、弱酸性次亜塩素酸水溶液との併用が可能であることが明らかとなりました。
芽胞菌に対する次亜塩素酸水溶液と界面活性剤の混合液剤の殺菌効果
セレウス菌(芽胞菌の一種)に対する弱酸性次亜塩素酸水溶液、ポリグリセリン脂肪酸エステルとショ糖脂肪酸エステル配合洗浄剤単独の殺菌効果を示します。
蒸留水単独と界面活性剤単独では、セレウス菌の生菌数は低下することはなく、界面活性剤自体に殺菌効果はありませんでした。
他方、弱酸性次亜塩素酸水溶液および界面活性剤を混ぜた溶液はどちらも高い殺菌効果が認められ、界面活性剤を添加しても殺菌効果は変化しませんでした。
この結果より、界面活性剤2種は、弱酸性次亜塩素酸水溶液の殺菌効果自体を増大させる効果はなく、浮遊状態のセレウス菌に対しては次亜塩素酸 (HClO)の単独の殺菌効果によることが示唆されました。
野菜に対する次亜塩素酸水溶液と界面活性剤の混合液剤の殺菌効果
水道水、弱酸性次亜塩素酸水溶液、2種類の界面活性剤で洗浄殺菌した場合のキュウリとアオネギに対する殺菌効果を示します。
キュウリおよびアオネギの洗浄前に比べ洗浄後、アオネギの水道水洗浄を除くすべてで生菌数が有意に減少しました。また、弱酸性次亜塩素酸水溶液のみで洗浄するより界面活性剤2種を添加することで生菌数を有意に低下させることができました。
また、キュウリにおいてはポリグリセリン脂肪酸エステル洗浄よりもショ糖脂肪酸エステル配合洗浄剤の方が生菌率が有意に低くなり、高い殺菌効果が認められました。
野菜に存在する微生物の大部分は、野菜表面に存在しています。
キュウリとアオネギ表面は、疎水性クチクラ層で覆われており細菌より遥かに大きい気孔などの植物器官が存在するため、付着微生物にとって好ましい自己防衛環境が整えられています。
そのため、殺菌剤が野菜表面の菌体に接触できずに、効果が得られにくいと言われます。
しかし、弱酸性次亜塩素酸水溶液に界面活性剤を添加することにより、野菜表面への濡れ性が向上(液剤が野菜に触れる面積が広がった)し、弱酸性次亜塩素酸水溶液を野菜に満遍なく接触させることができたため、野菜表面に存在する微生物に対して殺菌効果が向上したと推測できます。
また、カット野菜製造の洗浄殺菌工程は、水洗、中性洗剤で洗浄、流水すすぎ、殺菌剤での殺菌、水洗という流れが推奨されています。
界面活性剤を弱酸性次亜塩素酸水溶液に添加して使用することができれば、中性洗剤で洗浄する工程と殺菌剤で殺菌する工程を同時に行うことができ、工程の簡素化が可能となることが示唆されました。
また、界面活性剤添加弱酸性次亜塩素酸水溶液で洗浄殺菌した場合のカット野菜の味臭の変化は、弱酸性次亜塩素酸水溶液と同程度であり、洗浄殺菌工程後の水洗によって、除去できるものと分かりました。
食品工場における弱酸性次亜塩素酸水溶液を使った白菜の洗浄
漬物は発酵や高塩分によって食中毒菌の増殖が抑えられる保存食ですが、加熱工程がないため、原材料に付着した微生物が品質や食中毒発生に与える影響は極めて大きいです。
さらに、近年の健康志向の高まりから、漬物の塩分濃度は減塩傾向にあり、細菌が増殖しやすい環境となっています。
補足:漬物の衛生規範が改訂され、原材料に付着した微生物を殺菌するため、次亜塩素酸ナトリウム100ppmで10分または200ppmで5分処理という殺菌工程が追加されています。
水道水で洗浄した場合の一次洗浄後、二次洗浄後の殺菌率を算出すると各々72.6%、93.8%となりました。
50ppm 弱酸性次亜塩素酸水溶液を用いた場合の殺菌率を算出すると各々98.6%、99.5%となり、水道水よりも明らかに高い殺菌効果が認められました。
また、200ppm次亜塩素酸ナトリウムを用いた場合の殺菌率を算出すると、各々96.9%、99.1%となり、弱酸性次亜塩素酸水溶液とほぼ同等の殺菌効果でした。
生野菜の洗浄殺菌においては、浸漬のみよりも撹拌(かくはん)、バブリング、超音波など物理的な洗浄を組み合わせることによって殺菌効果が向上することが報告されています。
このような物理的な洗浄を組み合わせることによって、20秒という短時間でも漬物衛生規範で求められる殺菌効果と同等の効果が得られており、食品製造工程においても弱酸性次亜塩素酸水溶液が利用できることが分かります。
以上、食品洗浄において次亜塩素酸水の殺菌力の効果を上げるためには?についてご紹介しました。