次亜塩素酸水を使ったトイレの清掃は、においの抑制につながるだけでなく除菌効果にも繋がることが分かっています。順天堂大学医学部、順天堂大学大学院感染制御科学にて『温水洗浄便座洗浄ノズルの除菌条件の検討』の中で次亜塩素酸水を使ったトイレでの除菌について研究されています。
参考:順天堂大学『温水洗浄便座洗浄ノズルの除菌条件の検討』より
順天堂大学病原体等安全管理規定に基づき、BSL2(バイオハザード対策施設:人間の疾患の様々な重症度に関連する中程度のリスクをもつ試料を扱う場合、Biosafety Level 2 (BSL2/P2レベル) が適用される。)病原体等取扱の承認を受けた場所で行い、第30回日本環境感染学会(環境感染誌 Vol.32 no.3, 2017)にて発表されました。
今回は、その研究内容についてご紹介いたします。
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トイレ清掃・洗浄の重要性
昨今、日本全国で温水洗浄便座の普及が広がり、内閣府経済社会総合研究所によると2018年3月の時点で世帯普及率は80.2%にまで年々増加しています。今では、ホテルや商業施設、JRの駅構内、公共施設、病院など和式トイレを含め見なくなり、ウォシュレットがついている洋式トイレが一般的になりつつあります。トイレの感染症対策の一環としてウイルスが飛散しないためにも蓋を閉じてから水を流すなど配慮がされております。
それだけでなく、不特定多数の人が使用するトイレでは、汚物を流す時に水滴が飛び散ることで、便座周辺に細菌が飛散してしまい、菌の温床になっています。
温水洗浄便座には、洗浄水を貯めて使用するタイプと瞬間的に湯沸かして使うタイプとがあり、前者のタイプでは、塩素の消毒効果が低下して細菌が増殖するため、公共施設よりも使用回数が少ない家庭の方が細菌の増殖がしやすいという報告もあります。
トイレで細菌が繁殖、蔓延し他者への感染が憂慮される場所が、病院施設です。病院では、排便とともにVREなどの薬剤耐性菌を排出する患者がいるだけでなく、免疫力が低下した患者も混在するため患者間の集団感染が危惧されています。
ある市中病院の血液内科病棟で、メタロ-β-ラクタ. マーゼ(MBL)産生緑膿菌の集団発生事例が起きたケースでは、温水洗浄便座のノズルが伝播の原因と断定はできないものの、アウトブレイクしたMBL産生緑膿菌と同じのものがノズルからも検出されていることから、感染源として疑わしいと報告されています。
トイレを媒介した感染症を予防するためには、簡単に定期的に清掃や洗浄し、菌を減らすことが必要です。
順天堂大学での次亜塩素酸水の除菌効果
そこで、温水洗浄便座にもともと備わっているノズル洗浄機能に水道水ではなく次亜塩素酸水を用いることで、洗浄ノズルの衛生がより効果的に保たれるのかどうか、腸管に生息し便からも検出される腸内細菌科のEscherichia coli株(大腸菌)、Enterococcus faecalis株(VRE:バンコマイシン耐性腸球菌)、の Pseudomonas aeruginosa株(緑膿菌)の3つの種類の菌を使用して洗浄除菌実験を行いました。
実験には、温水洗浄便座瞬間湯沸かし型ウォシュレットTCF702 に水道水から直接電気分解ができる装置を設置(TOTO株式会社製品)した機材を使用しました。この装置で水道水を電気分解することにより、水道水に含まれる微量の塩素イオン(Cl-)から次亜塩素酸イオン(HClO-)を生成し、次亜塩素酸水が生成することができます。
次亜塩素酸水の除実験内容
各濃度の次亜塩素酸水を作成するため定電圧電流計(ATTO)を設置し、水道水中に含まれる残留塩素濃度が 1.5 ppm、1 ppm、0.5 ppm になるように電流を調整しました。
細菌が増殖した洗浄ノズルの作製には、100 mLの三角フラスコにTSB培地50mLを加え、ノズルを中央に固定し高圧蒸気滅菌した後に、半日震とう培養した細菌1.0mLを添加し、35℃にて2日間バイオシェーカーで140rpmの条件で培養しました。培養液中にはおよそ5×109cfu/mLの細菌が増え、洗浄ノズルと培地の上の表面に細菌の塊が付着し、バイオフィルムが形成されました。
また、洗浄ノズルの水が出る左右両脇に1cm2の枠を作り、1回目の水道水洗浄の直後に右側の領域内を綿棒で40回拭き取り、1mLの滅菌生理食塩液に浸し、懸濁させて洗浄実験前の対照区サンプルにしました。
水を出し、洗浄を5秒ごと行い、吐水液を滅菌サンプル瓶に集め、その一部を適宜希釈して寒天平板につけて培養しました。また、5回目の吐水を採取した後、吐水孔の左側の領域1cm2を同様に綿棒で40回拭き取り1mLの滅菌生理食塩液に懸濁させたものを洗浄後のサンプルとしました。
培養検査では、サンプル間のばらつきが大きくなるため、5回行った実験結果の平均値を算出し、検討比較しました。なお、コロニー測定用培地として、大腸菌と緑膿菌ではマッコンキー寒天平板を、VREでは、EF寒天平板を使用しました。次亜塩素酸水の次亜塩素酸濃度による除菌効果についての検討は、緑膿菌を用いて決定しました。
次亜塩素酸水の除菌試験結果
1回目の水道水洗浄直後の洗浄ノズルの表面には、約106cfu/cm2の細菌が付着していました。次亜塩素酸水は有効塩素濃度が0.5、1,0、1,5ppmの3濃度で比較しました。塩素濃度 0.5ppmでは水道水とほぼ変わりませんでした。
1,0、1,5 ppmに有効塩素濃度を上げると残存する細菌数は減少しましたが、検出限界には至りませんでした。
洗浄ノズルから水が出る液についても、水を出す回数を増すごとに、細菌数は減少しますが、5回目においても残存していました。この結果を踏まえ本実験では、有効塩素濃度を1.5ppmで行うことにしました。
大腸菌、VRE、緑膿菌に対する有効塩素濃度 1.5 ppm の次亜塩素酸水の除菌効果について Fig.1に示します。
大腸菌は、洗浄実験前には約1×105cfu/cm2の細菌が洗浄ノズルに付着していましたが、水道水による洗浄においても1×10cfu/cm2まで減少しました。また、次亜塩素酸水による洗浄では、検出限界以下になりました。
VREは、付着した菌数が少なく、水道水による洗浄効果の評価は困難であったが、次亜塩素酸水による洗浄では検出限界以下になりました。
緑膿菌は洗浄後も残存しましたが、有意水準5%で両側検定のt検定(標本の平均に差があるかどうかを検定すること)を行ったところ次亜塩素酸水の方が水道水よりも有意に減少しました。流した水の液の中の細菌数をFig .2に示します。
次亜塩素酸水による洗浄において、大腸菌およびVREは吐水3回目からほぼ検出限界以下になりましたが、緑膿菌は吐水5回目においても残存していました。
すべての菌に対して水道水のよりも次亜塩素酸水を繰り返し流す方が除菌の効果を高く得ることが分かりました。
まとめ
水道法により水道水の消毒は、水道末端において遊離残留塩素が0.1ppm以上を保持するように定められています。これは飲料水としての衛生は保たれるが、大量の細菌を積極的に除菌するには濃度が不十分と考えられます。
他方、洗浄ノズルを繰り返しリンスすることで大腸菌やVREの付着菌数は減少しました。
一般的に消毒効果は浸漬時間が長いほど消毒効果が増すことが分かっていますが、洗浄ノズル上の薬液接触時間は限られているため、消毒薬に抵抗性のある細菌の除菌には限界があると考えられました。また、環境中に広く生息する緑膿菌はバイオフィルムを産生し、消毒薬に対する抵抗性もあることから、有効塩素1.5 ppmの次亜塩素酸水洗浄でも完全な除菌は難しかったです。
従って、汚染が多い場合はノズル洗浄だけでなく定期的な清掃や1.5ppmより濃い濃度の次亜塩素酸水の利用の検討が必要であることが示唆されました。多剤耐性菌の保菌者の入院に際して、トイレでの次亜塩素酸水等を使った対策を徹底し、アウトブレイクを発生させない取り組みを期待したいです!
以上、次亜塩素酸水を使ったトイレの洗浄・除菌効果あり!清潔に保つためにはについてご紹介いたしました!