次亜塩素酸水を医療現場で応用!医療用小器具消毒をすることは可能か?

次亜塩素酸水溶液で医療用小器具の消毒につかえるか?

医療施設は様々な疾患を持つ人が行き来するため、院内感染を予防するためにあらゆる手段を施しております。

 

しかし、それでもメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、多剤耐性緑膿菌、クリストリジウムディフィシルによる病院内の感染は非常に問題となっています。その他の院内感染は以下の図を参考に

病院施設での感染症病原菌

引用:国立感染症研究所

 

・メチシリン耐性黄色ブドウ球菌

皮膚の化膿症や膿痂疹、毛嚢炎、蜂巣炎などの皮膚軟部組織感染症から、肺炎、腹膜炎、敗血症、髄膜炎の重症感染症や食中毒やトキシックショック症候群、腸炎などの原因菌となります。

・多剤耐性緑膿菌

敗血症や肺炎等を発症した場合、有効な抗菌薬の選択が困難となり、ショックや多臓器不全を誘発し、死亡する危険性が高いです。

・クリストリジウム・ディフィシル

偽膜性大腸炎を引き起こします。クリストリジウム・ディフィシルは芽胞菌の1種類で、産生する毒素により、粘膜が傷つき症状がでます。芽胞菌は胃酸にも強く、口から容易に腸まで到達することができ、院内感染の内、最も頻度が高い病気とも考えられています。

参考:国立感染症研究所「Clostridium difficile感染症と院内感染対策について」

 

その対策として、病院環境の清浄化、医療器具の滅菌・消毒を徹底的におこなうことは前提ですが、特に大切な要因として医療従事者の日常的な手指消毒が挙げられます。

 

塩化ベンザルコニウムやグルコン酸クロルヘキシジンは、MRSAに対する殺菌力に問題があります。

強い殺菌力を持つポビドンヨードは有機物混入によって効力低下が大きくMRSA感染防止という観点から、いずれも好ましい手洗い用消毒剤とはいえません。

 

そこで、漂白剤の成分である次亜塩素酸ナトリウムよりはるかに殺菌効果の高い「次亜塩素酸水溶液」を使用してMRSAをはじめ各種細菌に対する殺菌効果の試験を行いました。

 

また、使用頻度が高く、かつ高価な医療器具については、時間のかかる殺菌法は実用的ではありません。

 

材質によってはオートクレープ滅菌(高圧蒸気滅菌)のような高温滅菌に適さない器具も多いため、広範な材質に適用可能なより簡易に短時間で殺菌できると医療現場の生産性が上がります。

 

そこで、次亜塩素酸水溶液と超音波洗浄装置を組み合わせて、ピンセット、ハサミなどの医療用小器具の殺菌への応用についてご紹介します。

次亜塩素酸水の低濃度での殺菌効果

異なる濃度の次亜塩素酸水を11菌種、19株に異なる時間接触させる殺菌試験を行いました。菌と次亜塩素酸水の反応は20℃で各時間行い、反応液を一白金耳、感受性ブイヨン培地に移し、37℃、48時間静置培養後、菌の増殖の有無で判定しました。

 

有効塩素濃度0.8ppm、1.3ppm、2.2ppm、3.6ppmの次亜塩素酸水を1分、5分接触させた結果下記に示します。

次亜塩素酸水試験結果

有効塩素濃度5ppm、10ppmの次亜塩素酸水を5秒、15秒、30秒接触させた結果を下記に示します。

次亜塩素酸水試験結果2
有機物が含まれる状態での殺菌効果への影響を調べるため有効塩素濃度0.5ppm、42.5ppm、100ppmの次亜塩素酸水を用いて緑膿菌と黄色ブドウ球菌に対して実験を行いました。その結果は下記です。

次亜塩素酸水試験結果短い時間で除菌
株によって感受性に若干の差が見られますが、次亜塩素酸水の有効塩素濃度3.6ppmを1分の接触で用いた菌株すべてを死滅させることができました

 

また、短じかい時間の接触での効果を調べた結果、5ppm、5秒間ですべての菌を死滅させる事が分かり、流水式手洗い消毒に有効であると示唆されました

 

一方で、有機物が共存するとその効果は著しく低下しました。1%無脂牛乳、1% 乾燥酵母、1%酵母エキスなどが共存すると100ppm、1分の接触でも死滅しませんでした。

有機物の混入で殺菌効力が1/30以下に低下することが分かりました

低濃度で使用するため、においや手荒れの問題もほとんどないため、MRSAを はじめ院内感染防止対策の有望な手段になり得る可能性があります。

参考食塩水電気分解産物を利用した流水式手洗い消毒

医療用小器具の消毒に次亜塩素酸水を使用できるか

黄色ブドウ球菌、緑膿菌、ミュータンス菌の3つの菌を医療用のピンセットとはさみに10分間浸透させた後、滅菌したペイパータオルで自然乾燥させます。

 

それらのピンセットとはさみを超音波洗浄槽に入れて、有効塩素濃度10ppm、20ppm、40ppm、(pH7.2)に調整した次亜塩素酸水溶液(流速6L/分)を流入させながら10分、20分間超音波を発生させて殺菌洗浄を行いました。

 

洗浄殺菌の終わったピンセット、はさみは滅菌試験管および滅菌蓋付き平型容器にそれぞれ移して、ピンセットとはさみを培地に浸し、37℃、48時間培養後 菌の増殖の有無を培地の濁りで肉眼判定しました。

 

実験はいずれも同じ条件で2本のピンセットとはさみを用いて行いました。対照として行ったアルコールによる拭き取り実験は、ピンセットとはさみを被検菌液に浸して乾燥した後で、70%エタノールで表面を十分拭き取った後、同様 にピンセットとはさみを培地に浸して培養を行いました。

 

超音波洗浄装置を伴わない容器中でピンセットとはさみを20ppmの次亜塩素酸水溶液に浸して10分間殺菌を試みましたが、ピンセットの接合部やはさみの接合部に気泡が付着し、30分間放置しても気泡は除去できませんでした。

 

これらのピンセット、はさみを培地中で培養すると気泡のみられた部分には特に、付着した菌の増殖がみられたため、物理的振動の必要であることが分かりました。

 

超音波洗浄装置と次亜塩素酸水溶液を組み合わせた結果を下記にまとめました。

次亜塩素酸水試験結果感染症

ピンセットは20ppm、10分間の洗浄で付着した菌3種とも殺菌することができましたが、接合部の多いハサミでは20ppm、10分間の洗浄では十分ではありませんでした。菌を完全に殺菌するために20ppm、20分の洗浄が必要でした

 

アルコールでの拭き取りでは完全な除菌はできず、すべて生残菌の増殖がみられました

 

また、次亜塩素酸水溶液の温度を60℃に温めて比較実験を行なったところ、ピンセットでは非加温条件と同様の殺菌効果を認めましたが、温度による洗浄促進効果はみられませんでした。

他方、はさみでは20ppm、10分間の洗浄で付着した菌3種の完全な殺菌効果がみられ、60℃にすることで殺菌効果が増加することが明らかになりました

 

簡単な医療用小器具から複雑な医療器具までを含めて短時間浸漬で十分な殺菌効果が期待できる消毒薬少ないのが現状です。

 

器具の構造が複雑になるにつれて接合部や重なり部分が多くなり、そ のような部分に汚れがつくと、細かい気泡が密着してたとえ流水中に長時間おいても気泡が次亜塩素酸水溶液と器具表面との接触を妨げることから殺菌効果が低下します。

 

内視鏡ファイバースコープの殺菌に有効との報告(機能水シンポジウム抄録:80—81、1995)とさらに今回の結果より、超音波洗浄装置と次亜塩素酸水溶液の組み合わせで使用すればより有効であると推察されます。

 

加熱殺菌不可能な器具や長時間消毒薬浸漬が困難(器具の数が少ないため)な器具の殺菌法としてより広範な用途に使えるかさらなる実験を必要がありそうです。

 

参考:食塩水電気分解産物による流水式医療用小器具消毒法の検討

 

英語の表記の補足

Calf Serum(仔ウシ血清)

Skim milk(無脂肪牛乳)

Dry yeast(乾燥酵母)

Yeast extract(酵母エキス)

Y.enterocolitica(エルシニア・エンテロコリチカ)

B.subtilis(枯草菌)

S.aureus(黄色ブドウ球菌)

P.aeruginosa(緑膿菌)

A.hydrophila(エロモナス・ハイドロフィラ)

V.cholera(コレラ菌)

E.coli(大腸菌)

Salmonella(サルモネラ)

MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)

MSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)

E,cloacae(エンテロバクター・クロアカ)

A.calcoaceticus(アシネトバクター)

S.marcescens(セラチア菌)

St.mutans(ストレプトコッカス・ミュータンス)

 

以上、次亜塩素酸水で手洗いや医療用小器具消毒をすることは可能かについてご紹介しました。